有間さんは、でーさんにやって見せようと「ジャスティス学園」なる格闘ゲームを持って来ていた。
高村はプレステは持っていた。
だが、兄が私のコントローラーと一緒にプレステ2を貸し出してしまっていた。
高村の手許にあったのは、ダンスダンスレボリューション専用!コントローラー!のみであった。
(足で踏むやつ)
高村:「いい運動になるぞ!」
有間:「この家には・・・(溢れ返るほど物があるのに)・・・(必要なものは)・・・なにもない・・・・!」
クッ!
今まさに、血へどを吐いた野菊の墓の主人公のように、高村のベッドに倒れ伏す有間。

でーさんが有間さんにFLASHアニメの作り方を伝授しようと、高村にペンタブを要求した。
高村:「そう言えば最近使ってないなあ・・・どこやったかなあ・・・」
でー&有間:「この家には・・・何もない・・・!」
二人して倒れ込む。
高村:「失敬な、どこかにはある!質量保存の法則だよ!物は消えて亡くなったりなどしないものだ!どこかにはあるよ!」
何の慰めにも、何の解決にもならなかった。
高村:「何もない事はないさ。私がいるじゃないか!」
この家でなくならないもの。それは私。
だがこの際全く役に立たない事に違いはなく、でーさんも有間さんも、なかなか復活してくれなかった。
有間:「ハチオさんとね、今度会う事になったの」
高村:「ヤオさんじゃないの?」
高村は有間さんに「ヤオさん」である!と勝手に説得した。
有間さんはたいそう素直な質であるので、説得されてしまったが、
八尾さん:「ハチオでーす」
と、本人に名乗られてしまっては、せっかくの高村の説得も水の泡である。(笑)

ところでその会見の途中、
八尾さん:「やっぱり、有間さんは小さい人ですね。高村さんも小さい人でしょう!」
ガビガビガビーン!
八尾さんは予言したと言う。あたりだ。

高村:「なぜだ!高村の体が小さいのは親の遺伝と思っていたが、高村の内面にも『体が小さい』大人になると言う要素があったと言うのか!
決定なのか!何かそういう匂いでもするのか!
かつて高村の文章を『緑の岩石』と表現した人達が居たが、『チビ』と表現されるような要素があると言うのか!」
悲嘆に暮れる高村に、
有間:「なんかイヤな事でもあったの?」
高村の人生にはそんな事ありまくりである。
有間:「でも、でーさんの事も小さいとおもってたみたいだから気にする事ないよ」
高村:「意識の隅っこにいて、ひそひそ妙な事を呟いている小人みたいで、それはそれで楽しそうだな」

寝不足のぼんやりした頭で、有間さんにじゃれ付いた高村だった。
(八尾さんへ:ごねごねする口実にしただけなので、気にしないで下さい)

USJ

2001年9月23日
有間さんが行きたいと言うので、USJに行って来た。
なんと高村の家から、車で30分なのだ。
連休のど真ん中の日曜日、行こうと思い立ったのが、4日前。
当日券の入場なので、不安いっぱいの滑り出しだったが、券も買えたし、入場が30分早まったが、さほど前後する事もなく場内に入れた。
ジュラシック・パーク・ザ・ライドの予約チケットをもらい、バック・トゥ・ザ・フューチャーへ。
「バック・トゥ・ザ・ピクチャー!」
と、叫ばれながら写真をとってもらう。
ジョーズでは、
「はい、ジョーズ!」
時折、どうにもならんほど関西人のノリ・・・・。すばらしい!
(各コーナーごとに、だじゃれが違うので、注意して聞く事をお勧めする)
さて乗り物であるが、高村達一行は乗り物では最前列、催し物ではベストポジション!をキープ。
ことあるごとに、ずぶぬれになった。
「いっそここまでずぶぬれになると、清清しいほどだ!」
土産にTシャツを買うと、
「今着られますか?」
と聞かれるほどずぶぬれになった有間さんの意見は違うかもしれないが、私は自分自身がおかしかった。

これから寒くなるから、USJに行く時はカッパを買う事をお勧めする。
有間さんが、
「こんなにちょくちょく大坂に来るのに、タコ焼きを食した事がない。」
と言うので、心ゆくまでタコ焼きを食してもらおう!
タコ焼きバイキングに行った。
「た〜べほうだ〜い、ヨレイヒ〜♪」
(ガイドブックに載ってるようなタコ焼き屋はちっとも美味しくない、と言うのがでーさんとの共通の見解である)
カレータコ焼き、餅、コーン、チーズ、じゃがベーコン。
醤油、こんにゃく、ポーク、ツナ、チキン、キムチ。
チーズコーン。そして通常のタコ焼きと、喰って喰って喰ってッ!!
ついうっかり目が虚ろになり、苦行の領域に至るまで喰ってしまった。

「これで有間さんは、人一倍大阪のタコ焼きを喰ったね」
「手首を切ったら、丸いものがでてきそうだ〜」
3人で17皿(5個入り)完食。
大阪人の高村の人生でも、こんなにタコ焼きを喰ったことはない。
あ〜うまかった。
タコ焼きは中身の生地がプリン状になってないといけないよね。
今日、有間さんが遊びに来た。
Wellcome!!
台所の掃除をしてくれた・・・・。

その数時間後、でーさんが合流した。
Wellcome!!
部屋の掃除をしてくれた・・・。

高村を嫌いにならないで・・・。

その時に発見された本を見て、でーさんが呟いたのがタイトルである。
(何を見つけられたかは秘密。でも、その本は有間さんからのもらいものだったのだが)

このタイトルを書いたらでーさんが、
「今日、私はどんな悪い事をした?」
呟いた。
今3人で酒飲んでます〜
22日午前1時。
朝になったら、ビジョルドの新刊が出ている。
いい日確定だ。ふふふ♪

染るんです

2001年9月18日
テロの話ですっかり影うすくなったけど、
狂牛病の話どこいったんかなあ
頭は検査で持ち去られ、
骨格はうっかり骨粉業者に売られた。
(この件では業者は千葉県を訴えるらしい。当然だ。ちゃんと回収しないから。ついでに厚生省も訴えちゃえ。ちゃんと指導しないし、確認もとってないんだから)
そこで思うんだけど、

肉、どうなったン?肉。

骨格にわざわざしたって事は、解体したんやねえ。
肉、もしかして・・・・流通させちゃったの?

リスクが低くても、起ってしまう事は起こるんだ。
ネコの遺伝病だった白血病だって、人間にうつっただろう?
狂牛病(新型ヤコブ病)の経口感染よりもかなり確率低いじゃないか。

とりあえず、骨付きカルビは喰いたくない気分だ。

滾る血潮

2001年9月17日
何かいきなり、詩を諳んじたり、夢見がちなことを言い出す人に
「おー、なんや、詩人の血か?」
まったく同調できない高村。
卒業が近づくと、なぜかセンシティブになってメソメソしだすクラスメート達を、
「おおー青春ドラマしてるなー。ついてかれへん。早くこの地獄の責め苦が終わりますように」
いつもあんなに根性悪いのに、何か悪いもんでも食ったんか?
ぐらいの気持ちで見ていた高村。
(だって、○○ババァとかいって、陰でめちゃくちゃ馬鹿にしてたのに、「センセー」とかいって泣いて抱き合ってるんだよ?ついてけないっすよ。実際。しかもその勢いに乗れない人を人非人のような目で見るしさ。何なんだ、おめーら?病気か?と思っても仕方あるまい)
救いは私の友達はみんな退いていたって事よね。

さて、あんまり詩人の血は流れていない高村にも、たまにフィーバーがかかることがある。
豆腐フィーバーがかかれば、冷や奴とか、湯豆腐とか、寄せ豆腐とかやたら豆腐を食べる。豆腐好きなので、醤油なしでそのままもりもり食うこともできる。
兄などは私がプリンを食べていると思って、奪い取ったこともある。(卑しい馬鹿め)
わかめフィーバーがかかれば、刺身わかめの虜になったりする。
弟はそんな私を気味悪がった。(帰ってきたら、やたら黒いものを食ってて恐かったそうだ)

そして時折、手芸の血が騒ぐ。
車のシートのカバーを縫ってみたり、プリンターカバーを縫ってみたり、食堂の椅子のカバーを縫ってみたり(カバーばかりだな)、ジーパンをつぶしてスカートにしたり、ひたすらブックカバーを製作したりする。
ちょっと方向を変えてみるか?と、このあいだ、
100円ショップで道具を買ってビーズ細工にチャレンジしてみた。
こまこました作業は好きなのだが、何だか、自分にセンスがないことだけをしみじみと感じた。

センス・・・。こう言うとき、私は有間さんに声を掛ける。
「有間君、何か作ってほしいものある?」
「クッションがほしい。なると型の」
なると型・・・。ちゅーと、ラーメンの・・・。
そんなセンスを求めたわけではなかったつもりだがまあいい。
カエルグッズにあふれかえったファンシーな有間さんの部屋に、巨大なるとクッション!
愉快である。プププ。(カエルグッズは主にプレゼントされているようだ)
早速ピンクと白のフリースの生地を買う。
そしておもむろに、部屋掃除だ!
高村の手芸フィーバーは掃除、洗濯からスタートする。
昨日は模様替えをしていた。今日はその片づけだ。
布を切ったらすぐできるのだが、それまでが長丁場なのが私の手芸フィーバーである。
大丈夫、忘れた頃に届くから。

孔子の「迂」

2001年9月16日
間違えて消してしまった。12日アメリカ同時テロ話。
テロは許せないー!なんて話は誰でも思うことなので、割愛し、それが下敷きにあると言うことを主張してから、話始めねばならない。

事故当日、まずPLOの仕業である!と言うニュースが流れていた。
アラファト議長が動揺に唇を震えさせながら、弔慰を示す前の話である。
(これで自分のせいにされたら何万発もミサイル打ち込まれるかも知れないのだから、動揺するのも当たり前である)
パレスチナの人々は今回のテロに大喜びしていたが、これを「ひどい」と表現するにはあたらない。
パレスチナの人々は、アメリカ人が死んだらそれが善であるか悪であるかなどどうでもいいくらい、アメリカにひどい目に遭わされていたのだ。
いつも、5倍返しでひどい目に遭わせられていたのに、必ず加害者のような扱いだったのだ。
旧日本海軍がパールハーバーを攻撃した時、メキシコ人が大喜びしたのと似たような話である。
お祖父さんの世代に、無理矢理土地・財産を接収され、テントでの難民生活を余儀なくされた。
イスラエルに入植してきたユダヤ人は、一緒に富を運んできたが、土地を奪われた旧イスラエルに住んでいたパレスチナ人は仕事もなく、極貧で劣悪な環境に過ごしてきた。
50年経ってもあんまりこの状況は変わってないのである。
隣り合った地域でとてつもない貧富の差を見せつけられてきたのだ。
テロだって、そりゃ、喜ぶでしょう。責められません。

数年前のテロで、アメリカがアフガニスタン?に報復攻撃をしたとき、でーさんが、
「私はこの事態を論じるには無知に過ぎる」
と言って、パレスチナの歴史、アイルランドの歴史等、テロ関連の知識を蓄えていた。
いろんな書物を読んだでーさんはその資料がアメリカ(又は政権)側の情報操作を受けたもののあまりの多さにあきれていた。
日本で出版されている書物はアメリカよりのものばかりで(同盟国だからな)、公平な目で見るのが難しいらしいのだ。
しかし、テロリストが育つのは、その土地に、社会に問題があるわけで、(オウムみたいな狂信者は別として)死などが問題にならないような、不幸がそこにある。
クルド人なんかは、ゲリラにしかなりようがない現実がある。
このてのことを考えると、私の頭の中にはいつも論語の一説が浮かぶ。
国の兵隊を強くするための方策を求められた孔子が、まずは内政に力を入れることですみたいなことを言ったときの話だ。
「先生は迂遠だなあ」弟子にまで言われる。
中国大陸、春秋時代でも「迂」といわれたこの話。
中東の情勢不安は、ユダヤ人に勝手に土地を割譲した列強が元凶な訳だ。
聖地問題は勿論のこと、パレスチナには50年に渡って難民キャンプの劣悪な環境で暮らさざるをえない人もいる。差別や貧困を無くすと言うような「迂」も、やってみるわけにはいかないんだろうか?

そしてとりあえず、米国でのイスラム教徒への迫害や、差別がなくなると良いのだが。
イスラムは暴力的な宗教だけど、中に入っちゃうと差別のない宗教なので、それでなくても貧困層に信者が多いんだし。(しかも洗脳されちゃうし)
国内で報復合戦する気がなければ、止めたほうが良い。
マホメットももっと他のところでインスピレーションを得たら良かったのになぁ。
色々考える今日この頃。
だが、彼らの理想のために、イスラムに改宗することはできない。
(高村は基本的に一神教の心の狭さは我慢ならない)
しかし、こんなことを論じるには、私の知識は余りにも浅薄だ。

とりあえず今回のテロは「正義」の名に於て裁かれるらしい。
「法」じゃないのね。さすがアメリカ人、感情論者である。
泥仕合になりそうである。
今日は母上の命日であったので、墓参り用の花と仏壇用の花を買った。
昼間家にいて庭を眺める事などほとんどない高村は、
「あれ〜?松が2本ともないぞ〜」
違和感を感じていた。
墓参りは雨のなか、傘もささずに行われた。
死んだ祖母が墓マニアだったのか?
なんだかよく分からないが母の墓所と同じところに、母の兄弟の墓(生きているので中身は空)やたら墓をおったてた。
大変縁起の悪い事である。
結局父は、ばあさまの建てた墓を取り去り、母の墓を建てたのだが、母の墓参りをすると、それらのからっぽの墓にも参らねばならぬ。
シカも、水子供養塔とかも各所には立っていて、若くして戦争に行って死んだじいさんの弟の墓とかもある。
墓地は6ケ所だが、花を刺すところは20セットある。
つまり40個もの仏さんの花を買わねばならない・・・
真面目に買っていては2万円ぐらいアデューしてしまうのである。
だが庭に自生している菊はまだ蕾すらない。
なぜ墓参りには菊なのだ。御盆のシーズンにだって咲いていないに。
彼岸花を土手から採取してさしてしまいたい!
そんなわけで仏壇の花は張り込むが、墓の花は1本100円の菊を山ほど買って来て済ましてしまう。
選定鋏でその場で整える。

墓参りが趣味なおばあちゃんは、かわいいが、参る墓が近くにないからといって、山ほど建ててしまうばあちゃんは、迷惑千万だったりする。
親戚皆東京に行っちゃってるので、墓参りするの我が家だけなのだ。
死したる祖母に文句いいつつ墓まいり。

ところで松は母が亡くなった翌年に、そういえば、家の解体業者にきられたのだ。
きっとこれはぼけていたのではなくて、母上のいた頃の庭に思いを馳せていたわけではないのだが、そういう事にしておこう。

ああ。

2001年9月14日
でーさんったら。
「体をいとえよ!」
命令調じゃなくって、
「体をいとえよ・・・」
横からすっと薬を出す。
しみじみ系よ。
でもこれだとお金もらえないよね。
雰囲気的に。
昨日買ったソンブレロをもって、フロント前を歩いていると、
「オ〜、ソンブレロ!」
嬉しげなフロント係。
嬉しげな高村。御愛想をして通り過ぎた。
メキシコシティ市内観光へ、ソカロ広場。正にかつてのアステカ帝国の首都に私は来ていた。
現在が官庁外の真中のただの広場であろうとも、高村的には関係無い。
この地にピラミッドが建ち、心臓を抜かれた生け贄の体が、その頂上から転がり落ちると、
生け贄の肉を争って、アステカの民が群がっていたのだなあ。
ソカロ広場には今は仕事を求め、「大工仕事できます」プラカードを持ったおじさんたちが仕事を求めてぼーっと座っていて、大坂城付近のようだが、そこはそれである。
その時である。
高村の腹の上に、何やら暖かく湿った感じのするものが・・・。
それは、人の手であった。
5歳ぐらいの子供が私の腹にシールを貼っているのである。
「?」
「小銭がほしいんですよ」
ガイドさんは言った。
どうも、このシールは売り物と言う名目らしい。
だが、ベットの脇に置いたのが高村の最後の小銭で、財布の中には大きなペソ札しか入っていない。
日本円にして、一枚・・・5千円!
貧しい高村はこの稚い子供に、旅先で5千円を与えることはできなかった。
「え〜ん、で〜さ〜ん!小銭持ってる?」
とか訴え、逃げ回りながら小銭を借りようと努力していたのだが、でーさんは、『がんばれ、君なら勝てる!』何か状況を誤解していたらしい。
高村に勝つ気はなかった。
そうこうするうちにバス運転手が子供を追い払ってしまった。
「ああ、高村はしばらく、あの小さな子供の手の感触を忘れられないよ。夢でうなされるかもしれん」
鞄の中を漁ると、機内食で出たビスケットなんかが入っていた。
『ああ、こんなんでもあげたらよかった・・・』いつまでも後悔した。

市内を観光して、土産物屋に向かった。
でーさんの日記にもあったように、テキーラと神の水を試飲し、おかわりまでした。
その店で高村はポンチョを買った。本格的な純毛100%のポンチョである。
暖かそうだ・・・。高村の判断力は夜の寒さに狂っていた。
アステカのカレンダーの模様の、御世辞にも丁寧な作りをしているとも思えないレースを買う。
前日に買ったソンブレロと袋を合わせると、かなり怪しい人のできあがりだ。
でーさんは高村よりかなりファッショナブルなポンチョを購入。
「大阪でも着ようね」
無理である、でーさんのはともかく高村のは余りにも本格的すぎた。
夜はともかく、昼間は暑いメキシコシティ。
テオティワカンでは暑さのあまりポンチョを着続けることができずに、荷物となる。
土産物の露天を無視して、まずは太陽のピラミッドへ!
・・・い、痛い?
ぎゅーっと揉み絞られる様な痛みが心臓に起こる。
心拍数が上がる。
頭陀袋の中に仕込んでいたアップルソーダを、口に入れると、少し軽減した。
どうも水分を少しだけ採ると直るようだ。
ピラミッドのあちこちでうずくまりながら、ようやく登ると、でーさんが迎えてくれた。
疲れた体に鞭打ち、ポンチョを引き摺り出してでーさんと記念撮影。
ソンブレロ・サングラス・ポンチョ・たすき掛けにした袋。
怪しい人デビュー、イン太陽のピラミッド頂上!
でーさんも、ソンブレロ、サングラス、ポンチョ。つきあいの良い恰好でデビューした。
ここで、『勇者Yは聖なるカメラを、従者でーに託した』とでーさんのメモには記されている。Yは生ける屍状態で登ってきた。
従者は魔法使いと勇者を捨てて旅を急いだ。
やはり世を忍ぶ仮の姿だったんだ。あの驚異的な心肺能力は何なんだ。
死霊魔法(ネクロマンサー)で自らを不死化した、古の魔法使いに違いない。
クラス、リッチー。
自分が死にそうなとき、元気な人は化物に見える。
高村はYを置いて、でーさんを追い始めた。
ゆっくり歩く、以上のスピードで動けない高村は方々を写真撮りながら、体を斜めに傾けるようにして歩いた。
日本人はいない。土産物屋も、でーさん達とともに月のピラミッドに向かったのだろうか?後ろから着いてくる日本人もいない。何やら視界に人間がいない。
と思っていたら、心肺機能が丈夫な日本人にくっついていった土産物屋が引き返してきた。
だが、私の様子を見て、商品を出したりはしない。
「あが?」(水?)
自分の水を分けてやろうか?と言う雰囲気である。
高村は首を振り、鞄からアップルソーダを引き出す。
日本人としてちょっと複雑な気分だった。首からカメラも下がっているのに。
心配そうに見守られながら、土産物屋に者を売りつけられることもなく、のろのろと歩いた。
間欠的に心臓が痛む。頻繁に小休止をとりながら、月のピラミッドを登る。
土産物屋の一団以来人間の姿を見ていなかった。
頂上付近に近づくと、
「あ、じゃあ。私撮りましょうか?チーズ!」
でーさんの張りのある声が聞こえてきた。
月のピラミッドの頂上で聖なるカメラを作動させる、という任務を終えたのか、とても元気そうだ。
生えていた樹木ごとダイナマイトで吹き飛ばすと言う、男前?な修復方法のとられた頂上はコンクリの妙な具合の丸い山がのっかっていた。
這うようにして登る。
「高村君、来たの?駄目だと思っていたよ」
でーさんの声に応えるべく、
「に・・・日本人だ〜」
と、かえす。
高村はもうろうと歩いていたので、既に行き違いになったのでは無いかと、ちょっと不安だったんだ。
ここまで来て誰も居なかったら、もう動けなくなるかも知れないと思っていた。
などということはしんどくて口が動かなかった。
後は笑うだけだ。
「おお!高村君!ベストスマイルだよ!もう一回その辺から登ってきて笑ってくれまいか?写真を撮るよ!」
でーさんはどこまでも、元気だった・・・。ばたり。
月のピラミッドでも、着替えてポンチョ姿で撮影をすると、そこに居た同じツアーの人々が、衣装を貸してくれと言う。
記念写真が終わった人から、下(ピラミッド)山。高村は動けなかったので、下りるのは最後になった。
「さあ、集合時間まで、10分しかない。走るよ!」
手を引っ張られて走らされる。
心臓が痛い。めまいがする。視野が暗くなる。血が・・・酸素が・・・足りない。
「む、胸が痛い・・・」
でーさんに容赦はなかった。
Yが木陰で休んでいるポイントに着く頃、高村は本当に駄目になっていた。
そんなわけで、土産物屋が何を売りに来ていたかも知らないのだ。
マラソンランナーのトレーニングじゃないんなら、こんな高度の国で走るのだけは止めたほうが良い。

イヤな予感

2001年9月11日
泉見学の日はメキシコシティへの移動日であった。
「メキシコシティの到着は夜ですか?窓側に座れるといいですね。
飛行機からの夜景はそれは奇麗ですよ。
眠らずにちゃんと見ないといけません。
メキシコシティはUFOの目撃情報が大変多い街なんです。
UFOもあの夜景を見に来ているのかも知れませんね」
シニカル現地ガイドが珍しく、夢見がちなことを言ったので、飛行機で窓側の席が取れたとき、大変嬉しかった。
そしてその夜景は噂に違わずすばらしかった。
ゴジラの心で、でーさんは飛来地点に心決めていたが、宇宙人もそうなのかも知れない。
そのものすごい光のほとんどが、国有林を占拠した貧困層が盗んだ電気でできている。
そしてその国有林に、無数に建ったバラックの密集具合と暮らしぶりを聞くだに、複雑な気分になったことも特記しておこう。

ホテルに着いた。これから3泊はこのホテルである。
ホテルが変わるごとにエクストラベットに寝る当番を変えていたが、この3軒目のホテルでは高村がエクストラベット当番だった。
嫌な予感はしていた。
エクストラベットの状態がホテルをかわる度に質が落ちていたからだ。
小さな鉄のベットに、薄いマットレス、うわがけはシーツのみと言う猛烈なエクストラベットだった。
メキシコシティの気温は低く、しかも暖房設備が壊れていた。
最悪だった。
さむい!耐えられない!
どっちかのベットに入れてもらえないだろうか?
深夜、でーさんの様子を伺う。
文字通り大の字になって熟睡している。潜り込めるスペースがない。
Yの様子はと言うと、ベッドに対角線を描くように、横になっている。
どこからも入れない。
自分のスーツケースを開けて、シーツの上にあるだけ衣服を敷きつめる。
昼間は暖かいので、暖房と言う観点から行くと頼りになるのは、大阪で着ていたコートだけだが、気休めである。
二度と奇数人数で旅行になんか行くものか!コートに包まって寝た。

熟睡することもなく目覚めた朝。朝食前にガイドに訴える。
暖房が壊れている。あのエクストラベットでは寒くて眠れない。
ガイドは英語しか話せず、フロントには英語のしゃべれる人がまだ来ていなかった。
現地ガイド2に望みを託してバスへ。

フリスクさん。
おう!叔母さんと姪っ子が居るって事はデイジーちゃん。
ご両親は老齢でお亡くなりになられたか(つまりデイジーちゃんは年寄りの恥かきっ子)、子供と見せかけた娘さんかどっちかなんですね。
まあ、鳥類はおまけしましょう。おしりがかわいいから。(アヒルのおしりはかわいいのだ)
ところで、ミッフィーは寡黙な殺し屋に見えませんか?
あの表情の読み取れない顔。
無駄口をたたかないことを証明する、ばってんに縫い付けられた口。
ミッフィーが木陰に、あの顔でジャックナイフを持って立ってたら、ものすごく、恐い。
「ミッフィーちゃんは、今日はお仕事におでかけです」
ギャー!!

井戸のなかのナマズ

2001年9月10日
1万人ではなく、100万人の大実験であったという訂正をして、メキシコ旅行記を始めます。

朝、竜舌蘭の繊維工場へいった。
ミョ〜なものが観光コースに入っているものである。
ほ〜あれがテキーラやプルケの材料になるだけでなく、繊維として使われているわけですね?
巨大な蘭がぼこぼこ生えているかと思えば、巨大な束になってゴロゴロ転がされている工場を見学した。
正直言って、なぜ自分がこんなところにいるのか分からなかった。
ツアー旅行によくある、なんだかよく分からないみやげ物屋にしては矢鱈に単価が安いのだ。
竜舌蘭で編んだ、華奢なあみあみの鞄を2個と、
おお!
つばがでかくて頭の部分が三角なメキシコの農民のような帽子がある!(ソンブレロ)
おお!
母を訪ねて三千里のマルコがたすきがけにしててもおかしくないような、なんだかビンボーそうな鞄発見!
早速買う。
信じられないくらい安い!
高村はここで、自分を何者にしたいのだ?と、自問したくなるようなグッズを手にいれた。

本日のメインイベントは、メキシコの井戸、サグラダ・アズール。
チェチェンで遊んだ生け贄の泉はすでに地下水が枯れた飲料不可な泉だったが今回は生きてる泉だ。
ユカタンの地質は石灰質で、地表を流れる川は飲料には適さない。
日本のような豊かな土になれた日本人にはピンと来ない生活事情である。
さて到着したバスを出迎えたのはアルマジロであった・・・
マヤテキストを無理矢理アルファベットに置き換えてネーム入り、マヤ風のペンダントを作ると言う土産物屋が客よせのためにか、それ自体が本当に売り物だったのか分からないが、置いてあったのだ。
早速、
「ささ、でーさん、剥製持ってここに立ちなさい、も少し重そうに腰をかがめてくれ。
剥製の角度はこうだよ。そうそう」
といって写真をとった。
(後に有間さんはこれを見て、「捕まえたの?!」驚いていた。してやったり!)
地下15〜20メートルほど下れば泉である。
地下水が石灰岩を溶かして地中に穴を穿つ。
地中に出来た空洞に雨水が岩を溶かして入り込む・・・。
地面に唐突に丸い穴が出来たような泉だ。
水面へ向かう階段を下りながら、適当にシャッターを切っていた。
この時の写真を見ていたでーさんは、
「見られていたか・・・」
天網恢恢疎にして漏らさず、ふーっと恥ずかしそうに笑った。
そこにはいち早く階段をかけ降りたでーさんが泉の水に手を浸しているところがフォーカスされていた。
「魚を取ろうとしていたんだ」
さかな・・・黒い謎の魚類にはナマズのヒゲがある。(写真にとっていた)
こんな魚捕獲されても困るので、デーさんの野望があっさり破れたのは、お互いのためであった。
しかし、どうやって入って来たんだ、ナマズ(魚)?
誰か養殖していたのか?

何はともあれ、きれいで神秘的な泉だった。

1万人で震度1

2001年9月8日
昔、全中国人が
「いっせーの〜、で!」
で、ジャンプしたら、地球の裏側で、津波が起こる。
そんな話をしたと思う。

やってくれました、イギリス人!(ステキ!)
科学に興味を持ってもらうため、1万人、ジャンプ大会!
地震学者が設置された地震計の前で測定だ!
結果は震度1の地震を起こさせる事に成功!

これで中国とインドは人口という名の最終兵器を持っている事に!
しかも、低公害の。

ブラジルの人々よ!
やられる前にやれ!
って〜か、やられる前に、飛べ!(笑)
ま、やって、タダですまないのはやった方だとは思うけどね・・・

メリダの浦島太郎

2001年9月7日
さて、控えめな昼食を取った後メリダの街に帰る。
その日は自力ご飯の日であった。
街に繰り出して言葉も通じないのに、店に入らなくてはいけない。
「メキシコでは、失業者対策に警官を低賃金で大量に雇っています。
日本と違って、警官はあまり頼りになる存在ではありません。
スピード違反を取り締まるのは、罰金を逃れるためにドライバーが払う袖の下が目当てだったりします。
タクシーも、そうです。日本人がタクシーに乗ってそのまま身包みはがれるのは良くある事で、警官がそこに通りがかって助けを求めても、タクシー運転手といっしょに脅迫をします。
どこに連れて行かれるか分からないので、タクシーは利用しないでください。
カソリックというのは、懺悔をすれば罪が許されます。
ですから、犯罪者の殺人に関する罪の意識はほとんどありません。
検挙率が大変低いので、お金さえ払えば命を取られる事はありません」
シニカル現地ガイドから、嬉しくない情報を入手。
このガイド、チェチェンイッツアの階段おりながら、この階段で足を滑らせて死人が出た話とかを、私の横でず〜っと喋っていた。
注意を喚起する以上に喋ってしまう癖があるのだ。

メキシコシティはここよりもっと治安が悪いという話を聞いたので、街をぶらぶらできるのは今日だけかもしれない。
気にせず出かけた。
宝飾店は閉っていたので、Yが露天のアクセサリーショップを冷やかし、歩いている。
あんまり歩みが遅いので、しょうがないから目に付いた店で食糧を買おうと、
「この先のバーガーキングですますから、後でちゃんときなよ」
「うん」
適当に買ったが、Yは来なかった。アクセサリーの露天に行ってみたがそこにもいない。
早速、Yが行方不明になったのだ。探したがどうしても見つからない。
しまいに、高村は癇癪を起こし、ホテルに戻った。
じっと待っていても仕方ないし、食べた後、また外に出た。ツアーの人たちが帰ってきていた。
「Yを見ませんでしたか?」情報はなかった。

「バーガーキングに行ったのにいなかった」
しばらくしてYと、道端で出会って責められた高村。
だがY、露天のおやじに「店にもっといものがある」と言われ、店まで付いていき、店の中のものを見て、日本語学校に通っていたおやじに「浦島太郎」を唄ってやり、内容の話をし、ゆるゆる帰ってきてからバーガーキングに行った。
って言うのでは、私を責める理由にはならないだろうよ。
「そんな長い事居るわけないだろう。ワタシ等はあんたを探していたよ」
「この先に大きな商店街があって、結構面白かったよ。そっちいこう」
「・・・そう。気にせずYは観光してたんだね。ホテルに帰ってくるかと思って、ワタシ等は待っていたよ」
高村の臓腑はこの頃冷え切っていた。商店街は時間が遅くなっていたのか閉りかけていた。
「あ、ここさっき来たときはあいていたのに。良い雰囲気やったのに」
「あんたが行方不明になってから何時間経ってると思うん?」(3時間)
ブリザードであった。

だがまあ、開いていた本屋に入っている間に、機嫌を直したわけだが。

さて、浦島太郎(日本語学校の教材らしい)であるが、メリダの土産物屋は、この歌詞の内容に付いて、納得できないポイントを持っていた。
「浦島太郎は亀を助けたのに、その挙げ句、タイムスリップして知り合いも居ない世界に放り出され、土産の箱を開けたとたん爺になって死んでしまうというのはおかしい。
『助けた亀に〜♪』というのは脅した亀の間違いではないのか」
Yは上手く説得する事ができなかったというのだ。
「それではおじさんの意見を通してしまったのか?」

参考◆メリダの浦島太郎◆
浦島:「龍宮城ってとこに連れてけよ〜!
嫌だってんなら、亀なべにしちまうぜ。
ガラパゴスゾウガメみたいに、ひっくり返して背中から焼いちゃうぜ。
亀って生き物には鍋がくっついてて、手間がかからなくて良いよな〜?
おめ〜もそう思うだろう、亀さんよぅ〜?」(ダーウィンたちはそう思ったらしい)
亀を脅しつけ、龍宮城に乗り込み、
浦島:「亀に危害を加えられたくなかったら、歓待しろよな。踊れよ!鯛!ヒラメ!
けっ。魚が躍ってたって嬉しくも何ともねえ。
乙姫!こっち着てサービスしやがれ!いやだってなら、おまえのかわいいペット(亀)どうなるか分かってんだろうな!」
やらずぶったくり、悪の限りを尽くした。
乙姫は表面上はおとなしく言う事を聞いていたが、『月夜ばかりと思うなよ・・・』暗い情念を心の奥に秘めていた。
浦島:「出すもんさえ出してくれりゃぁ、帰ってやらねえでもないんだぜ」
とうとう浦島が帰る気になってくれた。
嬉し涙を隠しながら、お手製爆弾を豪華な成り金の玉手箱の中に仕込む。
乙姫:「良いですかこの土産を渡したら、一目散に帰ってくるのですよ・・・」
亀への注意も忘れなかった。
乙姫の強力爆弾はその目的を存分に果たし、爆心地にいた浦島は跡形もなく煙のように消えた。
めでたしめでたし。

「という話になってしまったのか?まあ、その方が分かりやすいけど」
メリダの浦島太郎は大変人柄が悪い。

補足◆浦島太郎*一途な亀の物語編◆
亀は浦島太郎に助けられ、一途に恋をした。
『あたしが人だったなら、太郎さんは一緒にいてくれるかも』
龍宮城でなら亀はヒトガタになれるのだ。(長寿の仙亀だったのだ)
亀は龍宮城で乙姫となり、太郎は優しかった。
龍宮城では人間はあっという間に年を取ってしまう。
亀は魔法の玉手箱に、太郎の積み重ねるべき年を折りたたんでいれていた。
幸せな時間は長くは続かなかった。
太郎:「年老いた両親が心配しているにちがいない。僕も心配だ。僕だけ幸せになるわけには行かないんだ。分かってくれ」
太郎は両親と地上で暮らすのを承知しない乙姫を責めたりしなかった。(龍宮城以外では亀になってしまうのは秘密だった)
玉手箱は本人と離れると魔法が解けてしまう。太郎の誠実な人柄を信じて、玉手箱を渡した。
地上と流れる時間が違う事、もう太郎の両親がこの世の人ではない事を亀は打ち明けられなかった。
見送る亀の目の前で、太郎は絶望し、蓋を開け、300年?という年月を一気に経て、心根の正しさから、仙人になって、空に昇っていった。
亀は姿を捨て、故郷の海を捨てる決心をした。亀は同じように霞のような存在になり、空に昇っていった。
二人はいつまでも一緒だった。
めでたしめでたし。
ああ!何と一途な亀の物語!!

しかし、でーさんには一途な亀の物語は不評だった。いーじゃねえか。種族の壁ぐれえ。
大体こっちのほうが大本の伝説に限りなく近い話なんだぞ〜?
でーさんにはメキシコ入国以前、飛行機の中でも、必死に読んでいた小説がある。
メリダで読み終わり、私に急いで読むように言い渡していた本である。
「古い骨」人骨の学者さんの出てくる推理小説である。
なんで、そんなに急いで読ませたかったかというと、ウシュマルの遺跡と、ウシュマル観光の後のお昼ご飯を食べる事になっているホテルが出てくるのである。
実はこのウシュマルの遺跡は夜になるとライトアップしているとか、ホテルからデリバリーでお昼ご飯が運ばれてくる事などが書いてある。

無論推理小説なのだけども、主人公の博士は人骨学者。
ピラミッドの内部から出てきた人骨を特定しようと、アメリカからやってきて、サスペンス臭く命を狙われた気分になるのだが。
実際その小説中で、彼に起こった事といえば、ホテルのデリバリー昼食で食中毒を起こすというその一点に尽きてしまう。
いいのか?
ホテル名指名で、食中毒なんか起こさせるような小説書いて。
しかも立地条件まで実在、実名、実住所だぞ。
怒られないのか?

そして、でーさんよ。
まだそこまで読んでなかった高村に、小説中の食中毒の話題を振ったでーさんよ。
・・・信じちゃったじゃないのよう。

パンダ良浜。1才。
153センチ35キロ!
そんなにまるっまちいように見えていて、実はわしよりスマートなんだな。ああ・・・。

パンダのニュース見て、追いつめられるのなんか、私ぐらいじゃないかしら。

RPG;Questウシュマル

2001年9月5日
ギャザウッドという人は同じような名前を方々につけたので、名前が結構重なる。
腕のいい画家のほかに、語彙の豊富な詩人を連れていなかったのは残念な事だ。
三角形のアーチを抜けると、そこは小部屋に囲まれた広場だった。
石畳の奥に数段の階段、中央に石造りの王の椅子。その後ろに壁のような階段がある。
椅子の部分は背もたれだけを残して壊れており、肝心の尻を置く部分が無くなっていた。
「ここで空気椅子だ、勇者Y」
椅子があるなら座らせる、座れないなら空気椅子。これ、高村の掟。ウラッ!
魔術師高村は、王の椅子に座る振りをする勇者Yの写真を撮った。
振り向くと、でーさんは左の部屋の装飾をスケッチしていた。

後ろから覗くと、キティちゃんのような輪郭に、三角の目を書き込んで、
「心の狭そうな猫」
と注釈をつけている。
「ど、どれのことだ〜?」
探すと、なるほどそのようなものが。
何やら3頭身のぬいぐるみの手足のようなものが付いた体と、首の間には蛇のような装飾のものが横断している。
「しかし、首を落とされてしまっては、心が狭くなってもいたしかたない・・・」
猫の懊悩の理由を、そのように言い、猫の下半身とともに書き込む。(猫;本当は豹)
高村は耐えられずに笑ってしまった。笑い上戸である。
ツアー中で妙な具合に目立っていた一行は、残念ながら話し掛けにくい雰囲気作りとは無縁で、飴をもらったり、りんごをもらったりしていたものだから、でーさんのクロッキー帖の周りに人が集まってしまった。
「何でもないんです」
慌てて隠すでーさんを置いて、ぴろっと今度は勇者Yのいる王座の後ろの高台に登る・・・。
『嫌な物が見えた・・・』
入り口付近では木の生えた変な形をした山にしか見えなかったのだが、こちらから見ると、修復の終ったピラミッドだった。
2つあるのか?ここのピラミッドって。
実はククルカンのピラミッドで筋肉痛な高村だった。

アーチを戻って亀の家へ。
カメ・カメ・カメ・カメ・カメ・カメとでーさんも書いていたが、軒に6個カメが張り付いているので、実にその表現が妥当な建物である。
総督の館の前には負け犬ならぬ負け豹。(耳が寝ていて、握りこぶしで戦意(爪)を隠している)
こんなところにぽっとあると違和感が漂いまくりだ、違う部品じゃないのか?
と、思わせた男性のシンボルが、唐突に立っていた。
そう思ったのは、総督の館が、まだ半壊状態だったからだ。(修復には元の材料を用いねばならないため)
部族間の戦争に負けて破壊されたらしいんだな。制海権と制運河権をかけた争いだったらしい。
川や運河を使用するとユカタン半島のかなりの範囲を支配下に置く事ができるのだ。
(マヤの地はインカ・アステアと違って金を産出・多用しなかったので。
ヨーロッパ人に征服されるのは他2地方に比べて、ずいぶん後の事だった)
そんな大都市だったんだ、ここ〜。ウキウキ。

魔法使いのいないピラミッド(崩れかけた岩山の方)を登ると、ジャングルの森の中に同じような岩山が、ぽつぽつとあちこちに見える。
全部本当はピラミッドなのだ。
緑深いジャングルを切り開き、無数のピラミッド、無数の建造物を建設する。
ところが文明の担い手は数十年で都を捨て、ジャングルの中に消えていく・・・。
そして遺跡はジャングルのなかに消えて行く。
ロマンだのう・・・

今回のピラミッドは足場がしっかりしていたので、段差がかなりきつくても、結構余裕だった。
ふと、
「あれ?うちの勇者はどこ行った?」
「上」
でーさんは言った。
「上?」
頂上はここのはずである。この上はまだ修復されていない部屋だけだ。
立ち入り禁止の黄色いロープを越え、獣道ほども幅も無い瓦礫(下は奈落の底)をよじ登り、修復前の部屋の上に登っていったのだ。
ここで魔術師高村と世を忍ぶ仮の姿従者でーさんは、
「魔法使いのピラミッドが立ち入り禁止で本当に良かったねえ!」
熱く語り合った。

かつてアクセルばっかりでブレーキがいない!といったがあれは訂正する。
ブレーキ付いてないのは一人だけだが、エンジンがむやみやたらにパワフリャー!なのだ。

ぽてぽてと、バスに戻る途中、魔法使いのピラミッドの横を通ったとき、すごい勢いで、ピラミッドの頂上にバケツが上がっていくのを見た。
ちょこまかっと走って行くおじさんの二人組みからロープが伸びていて、なんとこの作業、人力であった。
「あれ(バケツ)に乗って、頂上に登りたい!」
勇者が言った。
「そりゃあ、いいや」
高村はウケた。
・・・勇者は本気だった。
添乗員を捕まえ、作業中のおじさん達に交渉させるが、添乗員さんには勇者の訴えがいまいち掴めていない。
(常識で考えてそんな事を言い出すやつがいるとは信じられまい)
その上、添乗員さんは現地添乗員と違って英語しか喋れない、おじさん達はポルトガル語しか解さない。
まあ、どうにもならんだろう。
「あの紐をつけておじさん達の代わりに引っ張りたいのヨねえ?」
添乗員さんが常識の範疇で、勇者の発言を理解した時、
「それにしときなよ、Y。参加型観光って事で」
そっち方面に説得しよう、と思った。
「え〜?」
不服そうな勇者をほって、
「それで聞いてみてください」
頼む、魔術師。
この時、高村は高校時代最後の体育を思い起こしていた。
(エラーが出たので思い出は秘密メモへ)

だがやはり、聞ける無理と聞けない無理があった。
男子の仕事に軽々しく手を出せるものでもない。
聞けばこの修復の仕事は世襲なそうである。
マヤ文明在りし頃も、あらゆる仕事に世襲が幅を利かせていたという説もあるので、馴染みやすい背景があったのかもしれない。
「これはワシらの仕事じゃけえ」
と、ポルトガル語で言ったのであろう。代わりに走る事も断られた。
「せめていっしょに走っておいでよ」
おじさんが走るのを追いかけて、勇者と従者が走っていった。
「楽しいお友達ね」(困惑気味)
添乗員さんが言った。
「そうなんですよ」(自慢気)
「いつもあんな感じなの?」(不安そう)
「まざりたいですか?」(気付かない振り)
添乗員さんは面白そうだとは思ったようだが?、参加したくはなかったらしい。返事はなかった。
おじさん達が程なく2人に追い抜かれると、もしかしたら、ようやく交渉の意味が通じたのかもしれない。
爆笑が聞こえた。
火山から飛び出した岩から生まれたという、マヤの孫悟空(魔法使い)。
マヤの孫悟空が王様に脅されて作ったピラミッド。
余計な事をしてくれた。
ウシュマルに着いて高村は驚いた。
「嘘!ここにもピラミッドがあるの?」
そろりと、Yのほうを伺うと、もはや登る気満々である。
チェチェンイッツアのククルカンのピラミッドとは、仰角があまりにも違う壁のようなピラミッドだ。
階段の幅は15センチ・・・。シューズの横幅程しかない。
落ちたら確実に死ぬ!
でも、勇者であるY独りで登らせるわけにも行かない。
ほっといたら上で何をするか予想もつかない。
魔術師高村には勇者を無事日本に連れて帰る使命があるのだ。
(勇者Y、魔術師高村、従者でー:命名でーさん。高村が思うに、この従者、森の隠者の世を忍ぶ仮の姿。修行中の旅の魔法使いなどで足元にも及ばない高位魔法使いであろう。悪役になるから使わないけど、ネクロマンサーのスキルも持ってそうである)
反対側を振りかえると、従者でーも決心を固めたかのような、硬い表情をしている。
「登るの?」
「勿論!」
新たなる(高村とでーさんにとって)困難なクエストに目をきらめかせる勇者Yの姿に、魔術師(勇者の犬)の宿命を感じた。

うつろな目をした魔術師は、フィルムを入れた袋をバスの中に忘れた!
慌てて引き返したが運転手はがっちり鍵を掛けて行方不明に。
高村はカメラの中に2枚ほどしか、フィルムを残していなかった。
めそ。
気分は(カメラのフィルムだけに)ライトの魔法を2回しか唱えられない魔術師であった。(はっきり言って役立たず)
勇者に無理を言ってフィルムを1本貸してもらったが、こりゃいつもみたいに撮りまくるわけには行かないな。
(『人類月に立つ』の最終回に、「人類は美しい写真を撮りに月に行った」とか言う人もいたという話をしていたが、高村は写真を撮りにメキシコに行ったのだ)

そんな、意気阻喪中の魔術師高村に、挑みかかるような魔法使いのピラミッド。
別に頂上に悪い魔法使いがいて悪さを働いているわけでもないのに、『俺は行くのか〜、そんなにしてまで〜♪』
魔術師は寡黙だが、頭の中はかなり激しく活動していた。
まるで生命の危機に、何か役立つ事はないかと脳が昔の記憶を片っ端から再生するかのように。(←走馬灯ってやつだね。ドラマや漫画では「走馬灯ってやつか」、とボーッと見逃してしまうようだが、脳の気持ちも考えて焦って事態を打開してやらねば)
ほにょ〜っと歩いていると、ぴたり、勇者の足が止まった。
「く・・・!あのロープが憎い」

チェチェンイッツアで高村とチャックモールとの間を引き裂いたにっくき黄色いロープが、今回は高村を救った。
補修中につき立ち入り禁止。いい言葉だ。いい言葉だ〜!
「地獄に仏、私にはあのロープが仏様の情けに見える」
高村は悔しがるYをよそに、そっと喜んだ。
でーさんも喜んでいた。
魔術師と従者は存在しない勇気を証明しないですんだ。

メリダのお金持ち

2001年9月2日
野口英世が黄熱病の研究をした街、メリダ。
(野口英世のおかげでかかる人がいないので、どんな病気か、私には分からない。原因細菌の特定に成功したんだよね。次に目星をつけた病気は、ウィルス性の物で、当時の科学力では発見できるのもではなかった。医学研究の運不運だな)
そこは、高層ビルなど異世界の物語、2階建てや平屋の建物が軒を列ね、やたらに空の広い街だった。
だが2階建てと思われる建物の中に入ってみると、平屋。
何と、ドアの身長が3メートル以上もあったのだ。
ジャイアント馬場がスキップしながら入室しても、余裕綽々、全然オッケーな感じなのだ。
暑いから天井を高くするのは分かるが、ドアがでかくなるのはどうしたことだ?
余りにも暑くて耐えられない時、このドアを力一杯素早く開閉する!
・・・実は、巨大うちわなのではあるまいか?
高村は野口英世の銅像の前で写真を撮ってもらいながら、扉の使用法をあれこれと考えていた。

メリダの市場に行って、ここで初めてメキシコの人たち(インディオって言うんでしょうか、正当なマヤ文明の血筋の人々)と同じ高さで物を見た。
平均身長が男も女も150前後なので、高村と同じ身長なのだ。
こんなにたくさんの人がいるのに、ちゃんと顔が見える!
と言うのは見上げる人生を送ってきた高村にとって始めての経験だった。
いい国だ!高村は思った。ここなら私も人並みだ。

暫くして、Yさんもでーさんもいなくなっていることに気付いた。
どこではぐれたんだろう。
高村は市場をぴろっと走って脱出した。
そうだ、水を買っておかなくては。
食料品店っぽい店に入ってみる。
奥に座った小柄なおばさんが、私を見るなり、
「あが!!」
叫んだ。
吃驚して逃げ出した小心者の高村、『あ、もしかして、アクア(水)って聞いてくれたのか?』気付いたのはかなり経ってからだった。

トルティーヤを焼いている店の前で、みんなと合流。
ちょっと分けてもらう。
現地のとうもろこしが原料のトルティーアは、苦くて不味かった。
コーンの種類が違うんだろうけど、こりゃなにか巻かなきゃダメだ。
と思わせる味だったが、今考えると生春巻きが好きだからといってライスペーパーを貪り食う人もいない。
濃いソースのかかった肉と食ってたらあんまり気にならなかったかも知れない。
(市場でそんな物を食うと、ちょっと食中毒覚悟らしい。籤付きアイスは好きだが、当たり付き肉は恐ろしい)

市場を後にして、地域の人の教会に行ってみた。
信仰心はなくても近くの社寺仏閣は詣でてしまう日本人である。
でーさんは、ちんまいりんごを持ってあらわれた。
水一つ買えなかった高村とは違い、シナモンもゲットしていた。
高村は尊敬した。
「ニューヨークの別名ビッグアップルは、もっと大きなりんごが食べれるように成る街と言う意味があるんだよ」
でーさんは言いながら、ちんまいりんごをながめた。
「ニューヨークの主食はりんごか?」
高村もりんごを眺めた。
りんごの大きさで金持ち度をはかるお国柄なら、日本のりんごは億万長者の食べ物かも知れない。
ジョナゴールド。
・・・15倍ぐらいあるかもしれんな。

くまのぷーさん2

2001年9月1日
岩を砕く波のような冬の稲妻(とどちゃん。かっこいいまたの名が出来てよかったね)が私に云った。
「高校の一部だったの?全部でショ?!」と。
ゴーイング マイ イェーイ!な高村は、
「そうなの?」と聞いた。
冬の稲妻は、
「くまのプーさんは年がいもなく自己抑制の利かぬ男だ!」
と云った。
「年がいもなく?」
思えば高村は、くまのプーさんの映画を見に行った事もなければ、原作がある事も知らなかった。
「プーさんは、ぷーおじさんなんだよ。原作がそうだった!」
それであるのに、頭を木のうろにつっこんでぬけなくなって悶えてたり、蜜の壷に頭をつっこんで抜けなくなって、悶えてたりと、欲望の前には知性がお留守になる、情けないおやじなのだ!」
そうか、私の高校ではそんな事になっていたのか。
・・・知らなかった。
ゴーイング マイ イェーイ!あたってるかも知れんな。
私は自分が友達と決めない人には、好奇心が希薄だよ。
そしてわしは友達の前では、マシンガントークをするので、そんなまったりとした話題は私の耳には届かない・・・

ところで、ゴーイング マイ イェーイ!と冬の稲妻が、同じように
「ペンライト持って授業に参加したいわ〜」
と思っている、ちょろのすけ様が
「「ドナルドとデイジーちゃんは?デイジーちゃんは恥女ですか」って聞いてらしたよ」
と云うと、
「まあ、ちょろのすけさんが・・・
デイジーちゃんは子供だからいいのよ。
プーはいい大人のおじさんだからね!」

稲妻は子供なら裸で歩いていても気にしないらしい。
イェーイ!は、TPOによっては気にする。

有間さん、君と友達の誕生日に、
自己抑制の利かない、春先の痴漢スタイルの、誘い受けの、おやじのぬいぐるみを買ってしまったのだ。
よかったな。ぽむ。

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