文明の証

（起）
昔、弟に
『この家にはパスタ鍋もないのか？　この原始人め！』
謂れ無き非難を受けた事のある私は、ナカヌキヤで1つ1000円で売られていたパスタ鍋を、つい買ってしまった。
1000円なのに、5層コートの性能のいい鍋である。

（承）
しかし、保温力に優れた熱伝導の悪い鍋（？）は水が沸騰するのも、パスタ粥で上がるにも時間がかかり過ぎたのである。
縦長の鍋はコンロで使用するには熱効率も悪かったのだろう。
「文明的とは効率の悪い事よ・・・。パスタもスローフード化か？」
寂しく、鍋をしまい込み、いつものごとく年季物のアルミの大鍋でパスタを茹でるようになったのだが、秋になって、すばらしい能力を発揮するにいたったのである。

（転）
ところで私はさつまいもが苦手で、特に石焼き芋などぱさつくものは、思いっきりむせてしまい、とても辛い思いをしていたのである。
なのに、父はさつまいもを庭で栽培していたらしく、『収穫！』と言わんばかりに台所の大きなざるの中に山盛りにして、私をブルーにしていた。

（結）
蒸してみてはどうだろう？ふと思いつき、蒸し器と限り無く構造が似ていて、蒸し器よりも保温力がありそうなパスタ鍋で蒸し上げてみた。
『うまっ！』
蒸しただけなのに、スイートポテトのようにしっとりしたさつまいもに仕上がっていた。
・・・パスタ鍋は文明人の証である。
パスタをスローフードに仕立てるだけでなく、さつまいもを蒸す事もできる・・・（焼くより文明的よね？器が介在するんだから）。

1000円でよい買い物をした話。